AbemaTVが成長しているって本当か?

2017年9月20日の日経夕刊「マーケット・投資」面に「サイバー、ネット動画で得た自信」という記事が掲載されていました。電子版・記者の目というコラムのような囲み記事です。

内容は「アベマTVの利用者が増えている」「市場の注目は事業継続の是非から収益化のタイミングへ移りつつある」とのこと。GWに放送された亀田興毅の「勝ったら賞金1000万円」が1420万回の視聴数だったことを取り上げ、ポジティブなトーンで「サイバーエージェントは買いですよ」と臭わせています。

 

■累計ダウンロード数2000万達成

8月8日には累計ダウンロード数が2000万を超えたとの発表がありました。確かにダウンロード数は増えています。

www.cyberagent.co.jp

7月28日の第3四半期決算説明会の資料では、月間アクティブユーザーMAUが6月は916万人、週間アクティブユーザーWAUは6月に568万人まで増加したことを示しています。(この段階でダウンロード数は1900万でした)

藤田社長は「WAU1000万人になればマスメディア」と発言していた記憶がありますので、ようやく半分まで届いたことになります。

 

■ブーストによって作り出されたダウンロード数?

しかし、このダウンロード数はどこまで信じてよいのでしょうか?

「アップトーキョー」というサイトがApp Storeのランキングを定点観測しながら、どんなブースト広告(アプリをダウンロードするとポイントやコインがもらえる「リワード広告」を用いたダウンロード増のためのプロモーション)が行われているかチェックしています。5月の記事なので少し古いですが、AbemaTVがブーストでダウンロード数を増やしていることをレポートしていました。

「ブースト」はApp Storeなどの規約で禁止されているはずですが、サイバーエージェントはゲームアプリのダウンロード数を大きく見せるために、昔からブーストを常用しているようです。

ちなみに「ブースト」による狙いはコイン目当てのユーザーを対象にダウンロード数を増やすことではなく、ダウンロード数ランキングを瞬間風速的に高め、興味を持った一般ユーザーのダウンロードを促すことにあります。

app.tokyo

こんな状態なので「累計ダウンロード数」に踊らされてはいけません。

余談ですが、テレビCMで累計ダウンロード数をしつこく伝えるグノシーは、株主総会で「ブースト広告の利用」について質問が出たそうです。ゲームアプリを筆頭に、ダウンロード数の多さを訴えるアプリはどうもインチキ臭いです(笑)。

 

■視聴数のごまかし

また、亀田興毅の番組が1420万回の視聴をたたき出したと日経の記事は報じています。この「視聴回数」がまたクセモノです。

1420万人が見た、というなら凄いですが、MAUの1.5倍になってしまいますのでそれはあり得ません。AbemaTVの「視聴回数」は、何回その番組が視聴されたか、その延べ回数になっているようです。AbemaTVはザッピングしやすいインタフェースになっていますが、ザッピングする度に視聴回数がカウントされます。これも数字を大きく見せるためなんでしょうね。ペテンぎりぎりです。

この件についてはアジャイルメディアの徳力さんがとても冷静な記事を書いています。

一部のメディアでネット番組の視聴数を「人」で書いてるものが散見されますが、この1420万視聴は1420万「人」が見たと言うことでは無く、1420万「回」番組にアクセスがあったということのはずです。  

news.yahoo.co.jp

AbemaTVはインターネットテレビ局を標榜している割に、テレビの視聴率と全く異なる指標を振りかざすのもおかしな話です。

ちなみにテレビの視聴率(視聴者数)は平均オーディエンス数をベースにしています。
仮に10分の番組があり、母集団となる視聴可能な人口が100人いたとしましょう。
この中で50人が1分だけ視聴したら、平均オーディエンス数は何人になると思いますか?

  平均オーディエンス数=50人×(1分/10分)=5人

  視聴率=(50人×1分)/(100人×10分)=50/1000=5%

この数字がAbemaTVの視聴回数では、視聴者が1分間継続して視聴したとして50回、もし細切れにザッピングしていて合計1分見たとなると、その回数だけ視聴回数が増えることになります。これでは比較できません。

 

サイバーエージェントの決算に注目

サイバーエージェントの会計年度は9月で終わります。

噂では、AbemaTVの売上(広告の売上ですね)が全く伸びていないので、サイバーエージェントがAbemaTVに大量の広告発注を行っているのでは、とのこと。グループ企業内の決算対策「ブースト」でしょうか(笑)。

まあ、これは昔からあることなのだと思います。Yahooの決算が近づくとソフトバンクのブランドパネル出稿が妙に増える、という笑い話を何年か前に聞いたことがあります。

仮にダウンロード数が増え、ユーザー数も増えたとして、それで儲かるかというとそうではありません。有料サービスならユーザー数増=収入増ですが、無料サービスは広告売上増=収入増です。

自分自身、時々AbemaTVを見ますが、きちんとした広告主の動画CMを見かけることは少ない印象です。どうみても広告売上が増えている感じはしません。

コンテンツ調達に費用がかかる中、AbemaTVがどんな決算数字を発表するのか、そして来年度はどう成長させていくのか、決算説明会が楽しみです。

 

■AbemaTVはいずれ撤退か?

これは最後の余談です。

まあ、基本的にミーハーなんでしょうね。AbemaTVにここまで入れ込んでいる背景には、テレビ業界への憧れがあるように思います。最初の奥さんも奥菜恵でしたし(笑)。昔、GYAOを始めて大赤字になり、Yahooに事業売却を行ったUSENの宇野社長に似た香りがします。

2000年代前半にインターネットがブロードバンド化し、これは社会が変わるかも知れないと誰もが感じ始めた頃、大きくなった帯域を使って何をするのかと思ったら、結局テレビの追いかけだったのね、という失望を感じたことがあります。でもテレビと大きく違うのは、インターネットにはインタラクティブ性があることです。オンデマンドが大きな宝物であることは、言うまでもありません。

テレビ放送の時間編成から解放されるために、視聴者は録画視聴を行ったり、違法動画も含めてネット上の番組コンテンツをオンデマンドで視聴しています。(録画再生も自分の自由な時間に視聴できるという点で、オンデマンドです)

このオンデマンドという重要な価値を捨てていること、これがAbemaTVに対する根本的な疑問です。

あくまで現時点の個人的見解ですが、AbemaTVはコンテンツ調達コストを回収できるだけの広告売上を生み出すことができず、オンデマンドサービスにシフトするか、テレビ朝日に売却して終了するのではないかと思っています。